小学校の算数において、「分数」というものの意味は非常に大きいものだと思います。
とりあえず、足し算、引き算もままならず、おつりの計算もできないという児童は、ここからのお話の対象外です。ここでの「対象外」は、ダメと言っているわけではないです。このような児童がりっぱな大人になり、濃く、意味ある人生を送ることとは別問題ですから。ここでお話しするのは、普通に算数が出来ていた子が「分数」という壁にぶちあたってしまった場合についての考察になります。
分数において、特に問題となるのは、掛け算、割り算でしょう。この学習過程で以下に分かれると思います。
A:意味など考えず単なる計算方法として記憶する
B:意味が分からず挫折する(分数が大嫌いになり、そのあおりで算数や数学も大嫌いになる)
C:意味を考えるがわからず単なる計算方法として記憶する
D:意味を理解した上で計算方法として記憶する
個人的に一番愛おしいのはBです。Dは、もし自分でたどり着いたのなら怖いです。先生に教えてもらったのなら、その先生が優秀です。AとCは、一般に「勉強ができる子」として分類されます(ここの表現、あんまり良い意味ではないです)。かくいう私はCでした。
分数の掛け算、割り算を人に理解させる方法を考えることは、物事の本質を捉える能力を鍛える良い題材になると思います。これを読んでおられる方が教育に携わっているのであれば教育の技術を鍛えることになります。ただし、理解させる能力(方法、手順)ができたからといって、Aの児童にまで強要することはないと思います。本質に気付かせることが絶対ではない場合もあります。あくまでもBを救いたいという気持ちです。
以下、私だったらこうする という方法の紹介です。
掛け算、割り算にいく前に、分数の本質についておさえておきたいです。
分数とは何か。まず、一つ目です。
1、単位を定義し、その単位で示す
これ、何を言ってるんだろうと思われるでしょうが、この考え方が良いのではないかと思いましたのでこの観点で進めてみます。
(この下から実際に子供に話すイメージで)
ここに数直線があります。ここには飛び飛びに数字が並びます。これが整数(0、1、2、・・・)です。でも数の世界にはこのちょうどの数以外にも数があります。これを表す方法を考えてみましょう。例えば、0と1の間を10個に区切ります。
この0から一つ行ったところを、1を10個に分けた1個分、その隣は、1を10個に分けた2個分ということで、それぞれ、1/10、2/10と表すようにしました。これが分数ですね。今度は、1を100に分けましょう。100個分点をうつのはめんどうなので・・、あ、いいところにメジャーがありました。うまい具合に、1mが100個に区切られてますね。じゃあ、ここの長さは?(といって、30cmを指す)(多分、「30cm」という声と「30/100m」という声) 今は分数の話なので、30/100mですね。でも、30cmも正解です。分母の100の意味は、1を100に分けて新しい単位を作るという意味があります。この例では、1mを100に分けてcmという単位を作ったわけです。このため、このcmを使えば、分子の「30」だけで言えますが、mで言うには、単位を示す分母の100が必要です。
では、次に分数の足し算のおさらいです。分数の足し算をする時は、通分が必要でしたね。通分は、分母を同じにする作業ですが、これは、単位を合わせている作業なのです。2mと3cmを足すと? という問題で、このまま足したら「5」ですけど、単位が違うものを足しているので、むちゃくちゃですね。まず、答えをどっちの単位で答えるかを決めて、その単位で合わせて計算します。mで答えるなら、2と3/100になりますね。そもそも足し算とは、同じ単位のもの同士を足すためのものです。
次はいよいよ割り算です。割り算は二つの意味があります。「10個のりんごを5人で分けるとひとり分は何個?」というものと、「10個のりんごを5個ずつ分けると何人分?」というものです。両方とも、計算式としては、10÷5=2になりますが、意味合いが違います。後の方は、10と5の単位が両方とも「りんごの数」で同じです。こっちの意味合いで分数の割り算を考えます。
\[ \frac{4}{5} \div \frac{2}{3} \]この式の意味は、「4/5メートルのようかんを2/3メートルずつに分けると何人分?」ということになりますね。でかいようかんですね・・・
1メートルを5分割した単位での4つ分と、1メートルを3分割した単位での2つ分では、単位が違いますので、これを同じ単位にしましょう。つまり、通分します。
通分は分母を合わせるために数を掛けて最小公倍数にすると習ったかもしれませんが、一番簡単なのは、二つの分数の分母を互いに掛けてしまうことです。以下の通りです。
\[ \frac{4 \times 3}{5 \times 3} \div \frac{2 \times 5}{3 \times 5} \] \[ \frac{4 \times 3}{15} \div \frac{2 \times 5}{15} \]これで、1メートルを15分割した単位で統一できました。ここで、1メートルを15分割した単位に「ソンチメートル」という名前を付けると、割り算の場合は、このソンチメートルで計算しても結果は同じになりますよね(ようかんの長さをメートルで測っても、センチメートルで測っても、何人分かは同じです)。このため、分母は消してしまうことができますので、以下のようになります。
\[ (4 \times 3) \div (2 \times 5) \]÷の部分は分数の表記で/になりますので、結果的に
\[ \frac{4 \times 3}{2 \times 5} \] \[ \ \ ↓ \] \[ \frac{4 \times 3}{5 \times 2} \]となります。分数の割り算の考え方は、以上の通りなのですが、これは最初の式と比較すると、割る方の分数を「ひっくり返して掛けた」ということになりますので、この「ひっくり返して掛ける」方法を覚えておいて、簡単に計算するのが良いですね。
(子供への説明はここで終わり)
いかがでしょうか? おそらく、「算数」と「数学」の違いは、算数が、身近なものの数(リンゴの数とか)を扱うのに対し、数学は純粋に「数」のみを扱う点だと思います。分数は、数学の入口の感があります。小学校の算数で、これまで身近なものでイメージできていたものが、分数の登場で、急にイメージできなくなるのが戸惑いの原因になると考えます。そこで分数を身近なものでイメージさせるために、メジャー、そして、「長さ」のイメージから「ようかん」にもっていきました。あと、足し算や、割り算の意味についても明確化しています。「10個のりんごを5人で分ける」という観点で分数を考察すると、完全にむちゃくちゃになりますので、これを避けるためです。
さて、次は掛け算ですが、考えてみると、身近な例の掛け算って難しいんですよね。だいたい掛ける数って単位は何ですか?「力士2人分」ですか? その計算、何のためですか? 私の感覚では、掛け算とは、足し算の特殊な場合を簡単化したものと思うわけです。つまり、×5 とは、前の数にそれと同じ数を4回足したものを作る作業となるわけです。そうなってくるともう算数ではなく、数学として、数字上の約束として理解してもらうしかないんですね。この観点では、分数の2つめの意味が重要になります。
2、比を示す
ということで、3/5を掛けるということは、「3」と「1/5」を掛けるという意味です と説明し、「1/5」を掛ける意味について、「これは5分の1に小さくするということ」という説明に留めるしかないのではないかと思います。そうした上で、「3」を掛けるのは、量を3倍することなので、分子にのみ掛ける。1/5を掛けるのは5で割ることと一緒なので、5を分母にのみ掛ける。 というわけで、分子同士、分母同士をそれぞれを掛ける計算になる。という説明になってしまうのではないかと思うわけです。
先におことわりしたように、これは私なりの説明です。教育に携わる方は個々に工夫してください。ここでご説明した内容が多少なりとも、考察の助けになればと思います。